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アルキメデス列伝(2):アメリカのアルキメデス

シラクサでローマ兵に討たれたアルキメデスはその著書に魂をいれて後世に向かって歩き始めました。その後の道筋はどうだったのでしょう。話は中世へ移ります。

729px-Euge#768;ne_Ferdinand_Victor_Delacroix_0121204年第4回十字軍遠征によって今まで侵攻された事がなかったコンスタンチノープルが陥落しました。東ローマ帝国の終わりの始まりです。長年の栄華を誇ったビザンチン帝国の首都コンスタンチノープル(現在のイスタンブール)には膨大な図書が保管されていました。キリスト教を守るというはずの十字軍はしかし実際はその目的を大きく外れてコンスタンチノープルで虐殺を思うまま繰り返しローマの歴史に残る蔵書や他の文化財産をことごとく略奪の多対象にしました。その中にアルキメデスの著作を書き写した写本が3冊ありましたがかろうじて破壊を免れました。しかしその2冊がその後行方不明。残った1冊はギリシャ正教の祈祷書として生き長らえました。実はこの祈祷書、アルキメデスの写本に使われていた羊皮紙を再生して製本されたものだったのです。これをパリンプセプトと呼ばれ羊皮紙が貴重だった中世ではよく行われていたのです。左の絵はコンスタンチノープルの落城を描いたものです。


Christies Home + Archimedes Palimpsest近代に入りデンマークの古典学者がこの祈祷書の一部にアルキメデスの文字を見つけて解読したのですがどういう訳かそれ以降行方不明になってしまいました。しかし1998年突然ニューヨークのクリスティーズで競売にかけられることになりました。シラクサにいたアルキメデスが、アメリカで奇跡的にも甦ったのです。東方正教会のエルサレム総主協庁が所有権を主張し裁判沙汰になるかもしれない問題付きのオークションで祈祷書のパリンプセストはなんと二百二十万ドルという値段で匿名のIT産業の成功者(以下ミスターB)とおぼしき落札者によって競り落とされました。幸いにもこの落札者は一人パリンプセストを密かに蔵書する事はせず、事の解明を強く希望したのでした。ここからアルキメデスの業績が我々の前で明らかにされる物語が始まります。

下記映像はこのアルキメデスの論文が背後に隠されている祈祷書のパリンプセストです。大変貴重な映像です。
(原典:http://archimedespalimpsest.org/about/)

Turning Pages of the Archimedes Palimpsest from Walters Museum on Vimeo.



このオークションのニュースを知ったメリーランド州のボルチモア、ウォルターズ美術館(Walters Art Museum)の学芸員ウィリアム・ネッツ博士が落札代理人に出したeメールが解明の旅への始まりになりました。ミスターBはウォルターズ美術館でパリンプセストの解明を行う決心をしたのです。

解明プロジェクトの財政的なサポートは落札者であるミスターBが拠出しテキスト分析解明のプロ達が集まりました。ウィリアム・ネッツ博士をプロジェクトマネージャとして優秀な人材が集まりました。最初の段階は製本を解いて一枚ごとのフォリオにすることでした。これには痛みやカビで相当ダメージを受けていた羊皮紙の冊本を取り扱う専門家による外科手術のような忍耐深い作業が必要で、4年もの時間がかかったそうです。

祈祷書もギリシャ文字で書かれており、削られたテキストは垂直に書かれていました。平行に書くと列が乱れたり書きにくいことがあったので、90℃回転させて新しい罫線などに従って祈祷書を書いていったのですね。これは当時のパリンプセストの手法としては常套手段だったのです。加えるに祈祷書の製本はその前の著書をとくにケアをしていませんから下地の文章はまったくランダムに又気まぐれに規則的に並んだ形をしていました。図も途中で切れていたりとその解読作業は気の遠くなる作業でした。

文字の解読も難儀をきわめ、書き写した人が言葉を誤記した場合など、どのように解釈していくかという問題も克服しなければなりません。

照明の色を変えてそれを画像処理して下地の文字を解読する手法なども採用されました。書き手の筆跡なども分析をして架けている箇所に当てはまるギリシャ語は何かなどが贈処理を行う事も試みたようです。大体80%程度のテキストはこれらの方法で解明することができましたが、後の20%はかなり困難な作業が伴うことになりました。

アルキメデスのテキストに用いたインクの成分を元素レベルで測定して、その検出量が多い場所を平面にマッピングしていきます。これはすなわちインクの存在している所をあぶり出しのように検出していくのと同じなので元素の地図がテキストの文字と同じになる訳ですね。元素の特定にはx線を使用し、その測定方法をXRF(X-Ray Fluorescence)と呼びます。パリンプセストでは第一段階としてEDax社との研究で行われました。

まずX線で元素分析をします。サンプルを下記のように升目に分けて順番にX線に当てていき各々の領域の元素を分析します。例えば鉄が検出されれば黒か灰色になるようにします。そうしてマップを作るともともとインクがあった所だけ色が変わりますので、この模様からここにはAという文字が書かれていることが分かります。
元素マッフ#12442;

さて下記の図を使ってどのように下地のテキストを読んでいったかを説明しましょう。

Original Text(1)元々のテクストは左のように羊皮紙に書かれていました。ダミーのテキストをギリシャ文字であらわしています。英語のThe quick brown fox jumps over the lazy dog.と書いています。



Erased Text(2) パリンプセストをつくるためにギリシャ語のテキストを削り取ります。かすかにオリジナルのテキストのインクが残ります。


Palinmsest (Before XRF)(3)削られた羊皮紙のうえに祈祷の文章がかかれました。オリジナルのテキストと平行に書くと残ったインクなどがあって祈祷文を写しにくいのでパリンプセストは新しい文字を古い文字を90度傾けて書かれました。


Palinmsest (After XRF)(4)それをX線で分析してマッッピングするとオリジナルのテキストが浮かび上がってきます。 このステップのからくりは体のx線写真と同じですね。x線が体の骨(カルシウム)の透過量が変わってその形がフィルムに感光されます。x線は波長が短く体のその他の組織を素通りしてしまうので骨の形のみが分かる訳です。通常の光だと皮膚で反射されて中は見えませんね。この場合も同じで、通常の光だと新しく書かれた祈祷書の文章のみが見えますが、x線を使うとその部分を素通りし、奥にあるインクの鉄に作用する訳です。x線の大きさは針位なので、サンプルを走査してサンプルの全ての表面にこのx線が当るようにして鉄分のある所ない所をマップにすると下地の文字が分かるのです。しかし全くクリアに判別できるというものでもなく表面のインクの成分の残滓もあり、左に示したようなイメージになると思われます。

以上のような方法で下地の文字を明瞭化していったのですね。

しかし問題は広い領域でこの元素分析を必要とした場合、通常のx-線発生管では強度の問題で測定に時間がかかり、例えばフォリオ全体をスキャンさせるという仕事では何日間という時間を要することが分かっています。そこで白羽の矢を立てたのがカリフォルニア州メンロパークにあるスタンフォード大学にあるSLAC National Accelerator Laboratory内のSSRL(Stanford Synchrotron Radiation Lightsource)を使うという事でした。ここでは強いx線を照射できるビームラインが備わっています。

下の写真は左からSLAC全景、SSRLの研究設備、SSRLのビームライン6-2 高速走査型RXF装置です。
slac_aerials_medRes-4.jpeg slac_aerials_medRes-5.jpeg Beam Line 6_2

下は左側の図:XRFの分析器の構成図。右は実際にフォリオをスキャンさせるように下治具とX線光源。
Rapid scanning XRF SCAN SAMPLE

XRFで検出した元素のエネルギー分布図。定められたエネルギー帯にピークが出ている模様が分かります。鉄の元素を検出しそれをマッピングしたもの(右側の写真右半分、左半分は通常の光を照射したもので下地のギリシャ文字は見えません。)
XRF Spectrum Archimedes Palimpsest

ただSSRLは強い光源を提供するのですが、それはすべての解読までをカバーする訳ではありません。SSRLで得た画像データを判読し、その意味することを正しく理解する必要がありました。その艱難辛苦な作業を経てようやくこのパリンプセストにはアルキメデスの次に掲げる論文が収録されている事が分かりました。

1. The Equilibrium of Planes (面の平衡あるいは釣り合い),
2. Spiral Lines (螺旋について),
3. The Measurement of the Circle(円の測定),
4. Sphere and Cylinder(球と円柱),
5. On Floating Bodies(浮体について),
6. The Method of Mechanical Theorems(方法),
7. Stomachion(ストマキオン)

この次はアメリカに現れたアルキメデスの数学や考え方について約2,200年の過去にタイムトリップをしてみたいと思います。




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